4.「手遊び歌」について

【1、自分で行動する遊び】
 赤ちゃんが0才の時期に発達しなければならない課題として「手遊び歌」があります。生後8〜10ヵ月頃になると「手遊び歌」が始まります。
 月齢相応に愛着を形成し、人見知りを経過した赤ちゃんは、日に日に心を外に向けて開いていき、自発的に行動するようになります。
 愛着形成の道のりの中で、母親や人にふれる喜びや遊んでもらう楽しみを覚えた赤ちゃんは、今までのように人に何かをしてもらうだけでは満足できず、発達した手指行動や身体的機能を駆使して、ハイハイしながら周りにある玩具や日常生活用品などに興味を示して手当たり次第にさわったり、ながめたりする探索行動をするようになり、かつ、日常生活用品を用いて遊び始めます


〈ハイハイしながら探索行動〉

〈日常生活用品を用いて遊ぶ〉

〈大人の反応を引き出すために
       同じ行為を繰り返す〉
 このように、赤ちゃんは自分自身で行動する遊びを展開するようになりますが、大人はそうした赤ちゃんの遊びに魅せられて声かけをしたり、介添えをします。
 こうして赤ちゃんは直接的なふれあいに加えて、遊びを通して人との関わりを深めるようになります。
 たとえば、赤ちゃんはテーブルで玩具をいじりまわして遊んでいる最中に、たまたま玩具を落としてしまったとき、玩具の落下する光景がおもしろくて、くりかえし玩具をわざと落とす遊びをします。さらに、赤ちゃんが机から玩具を落としたとき、大人が「アレレ、オチタ!」とわざとおどけた顔をして、玩具を拾うと、赤ちゃんは大人の反応がおもしろくて、同じ反応を引き出すために同じ行為を繰り返します


【2、手遊び歌の成立】

〔1、手指の発達〕
 この時期になると赤ちゃんは、ハイハイばかりではなく、つかまり立ちもするようになり、一段と手指に力が入るようになります。
 また、親指と人さし指を向かい合わせたり、親指と中指や薬指を向かい合わせる動作など、手指の細かな動きができるようになります。
 そのため、大人が「むすんでひらいて」の歌を歌いながら、「グーパー」の行為を促すと、赤ちゃんも「グーパー」と手指を開閉します。また、両手の親指と人さし指を向かい合わせて「メガネ」をして見せると、赤ちゃんも「メガネ」らしいしぐさをします。

〈親指と人さし指を向かい合わせる〉
 〔2、聞くことの発達〕
 この時期は喃語の発達も著しく、赤ちゃんはくりかえし喃語を発しますが、自分の声を心地よさそうに聞いたり、大人が発する音をよく聞くようになります。
 手遊び歌のようなリズミカルな歌に反応して、大人の歌に合わせて「ウーウー」と一緒に声を出したりします。
 また、赤ちゃんは人の身振りをよく見つめながら相手の言葉の理解をしようとつとめ始め、だんだんと簡単な言葉の理解ができるようになります。
 「いい子ね、上手ね」と言うと、ほめられたことがわかってニコニコします。

〈簡単な言葉の理解がはじまる〉
 〔3、見ることの発達〕
 この時期になると赤ちゃんは、指差しした方向を見たり、離れた物を集中して見ることができるようになります。
 大人に対しては、何か楽しいことをしてくれることを期待して大人のしぐさを関心を持って見つめるようになります。また、大人のやることの細かい動作の見分けもできるようになります。

〈指差しした方向を見る〉

 〔4、模倣力の発達〕
 上記のような「手指、聞くこと、見ること」の発達を土台にして赤ちゃんは、人の声かけや身振りに反応して手指を動かすようになります。
 大人は赤ちゃんがわずかでも手指を動かすと、「できた」と言ってほめ大喜びをすると同時に、赤ちゃんのかわいらしい姿に魅せられて大人はさらに多くの声かけと身振りで、赤ちゃんの反応を引き出そうとあやします。
 すると赤ちゃんは「あやし」に応じて同じ動作をくり返すようになり、くり返しているうちに模倣することをおぼえはじめます
 こうした大人との関わりを通して、だんだんと「聞くこと」と「見ること」を同時にするようになります。
 さらに大人の手指の動きを模倣する力が加わって「手遊び歌」がはじまります。
 はじめは「オツムテンテン」「シャンシャン」といった簡単な動作から始まり、しだいに大人が「むすんでひらいて」の歌を歌いながら手指を開いたり閉じたりなどをすると赤ちゃんも小さな手でそれらしいしぐさをするようになります。
 こうした行動をくり返しているうちに、動作の模倣だけではなく、大人が歌を歌うと赤ちゃんは教えられたとおりに手指を動かすようになります。
 大人は、赤ちゃんがもみじのような小さい手で「むすんだりひらいたり」する動作に魅せられて、いっそうかわいらしくて抱きしめたり、「じょうずね」とほめたりします。
 すると赤ちゃんは、そうした大人の反応を期待してくり返し手指を動かします
 このように大人と赤ちゃんは、ともに笑い、楽しみながら「手遊び歌」をして「きずな」を深めていきます。


〈大人と同じように手指を動かす〉


【3、気持ちを伝える手】
 赤ちゃんとひと遊びをして別れるとき、人は誰でも「〜ちゃんさようなら、バイバイね」と言って手を振ります。すると赤ちゃんも模倣して手を振ります。
 赤ちゃんは、はじめは単なる動作模倣でバイバイをしていますが、大人が赤ちゃんが模倣した行為に感動して「わー、バイバイができた」といって喜ぶと、赤ちゃんは自分の行為に感動する大人の反応をもっと引き出したくて、くり返し「バイバイ」をするようになります。この時、大人も赤ちゃんも楽しくてニコニコ笑顔です。
 こうして赤ちゃんは「バイバイ」をすることの楽しみを知り、自分から「バイバイ」をするようになります。
 そして赤ちゃんは「バイバイ」をくり返しやっているうちに、バイバイをすると大人の姿が見えなくなることを認知し、バイバイには「さようなら」「また遊ぼうね」という気持ちがこめられていることをおぼえていきます。
 また、この頃の赤ちゃんは周りのものを見つめて指差しします。とってほしい物を指差したり、行きたい方向を指差して「アーアー」と要求するようになります。
 大人が要求に応えると、赤ちゃんは言葉で伝えられない気持ちを指差し行動で伝えられることをおぼえます。
 「抱っこ」といってさしだす手、「おいで」といって招きよせる手、「いい子ね」といってなでる手、「なかよしね」といってつなぐ手、などいろいろな場面での体験を通して赤ちゃんは、手は「つかう」だけではなく「気持ちを伝える手」でもあることを認知します。
 手遊びをしながら赤ちゃんは手遊び歌にこめられた気持ちや意味を感じとっているのです。


〈自分からバイバ〜イ!〉

〈「おいで」と招きよせる手〉


【4、まとめ】
 手遊び歌は「聞くこと」「見ること」「手指機能」「模倣力」などが順調に発達した結果できる遊びです。
 しかし、手遊びをする時のポイントは、赤ちゃんが楽しんで手遊びをすることです。
 赤ちゃんに人と遊ぶことがうれしい、歌を聞くことが楽しい、大人と一緒に手指を動かすことを喜ぶという気持ちが育っているから手遊びに興味を示すのです。
 また、手遊び歌は目と耳と手に働きかけた遊びで赤ちゃん自身が行動する遊びであります。この時期に格好のふれあい遊びといえます。


〈つなぐ手〉



〈大人の手遊びに無関心な赤ちゃん〉

【5、手遊び歌をしない赤ちゃん】
 月齢(8〜10ヵ月頃)がくればどの赤ちゃんも手遊び歌が成立するわけではありません。前述の【4、まとめ】で述べたように、大人と一緒に遊ぶことが楽しい、一緒に遊びたいという気持ちがなければ、赤ちゃんは人とのふれあいによって育まれる「手遊び歌」に関心を持ちません
 したがって、「手遊び歌」をしようとしない赤ちゃんは、人とふれあっていろいろと遊ぶよりも一人遊びのほうを好む傾向があります。
 本来、赤ちゃんは大人から何かを学ぶときは、赤ちゃんが積極的に大人の動作を見たり聞いたりしながら手指を用いて模倣することにより学んでいきます。
 たとえば、赤ちゃんが言葉をおぼえていく場合、大人の言葉を聞き、その口もとをよく見て、同じような音をくり返し発音しながらだんだんとおぼえます。いろいろな遊びや日常生活動作なども、人の動作を見たり、聞いたり、身体や手指の動作を模倣しながら学んでいきます。
 月齢相応に「手遊び歌」ができるということは、赤ちゃんが教えられたことを学ぶことができるようになったことであり、知的好奇心のめばえです。
 したがって、「手遊び歌をしない赤ちゃん」には、大人のほうが積極的に関わって、ふれあうことの大切さを教え、かつ、「聞くこと、見ること、手指の動作など」の発達をうながすことが大切です。

トップページへ